(3)予感的中《10月―天国と地獄のあいだには》 ~2002年10月の記録 ∬第3話 予感的中 翌日曜日、一番上の兄が住むカルカンへ一同で出掛けることになった。 カルカンはアンタルヤの西約230kmに位置するリゾート地。兄はここで土産物屋を開いているのだ。 今年正月早々、不慮の事故により妻と娘の両方を同時に亡くし、侘びしいやもめ暮らしを余儀なくされている兄の元に、機会あるごとに家族が訪れては共に語らい、食事を共にし、家の中をくまなく掃除してきれいに整え、溜まった洗濯物を片付けて帰る、というカルカン詣でを続けているのだった。 一同を乗せるのは、齢33歳になるポンコツ・ワゴン。愛嬌ある形と古い趣が夫のお気に入りで、日々之不調、故障、修理の繰り返しを乗り越えながら、1年の間乗り続けてきた愛着ある代物だ。 しかし、つい2日前にも街中で急にガソリン臭がし始め、中を開けて見るとタンクからエンジンにガソリンを送り込む管がはずれていたばかり。この時は幸運にも、隣に停まっていた車の持ち主が車の修理屋で、すぐに繋いでくれたため事なきを得た。 もはや私もこの程度のことでは驚かなくなっているものの、遠出となると話は別である。 特にカルカンまでの海沿いの道はアップダウン、カーブ共に激しく、よもや途中で何か起こった場合のことが頭の中をよぎらずにはいられなかった。 私の不安を他所に、夫は自信満々だった。修理屋で万全に調整してきたというのだ。修理屋から帰ってくるなり今度は別の箇所がイカレる、という経験を何度も繰り返してきたことも忘れたかのように。 アンタルヤを出発した車は、いくつかのターティル・キョユ(休暇村)を横目にしながら南下して行く。途中、リゾート地として発展を続けるケメル、紀元前7Cに建設された古代の港湾都市ファセリスなどを通過しながら、上り坂では明らかに体力不足が見えるものの、まずは快調に飛ばしていった。 私には、この飛ばし過ぎが気にはなったのだが・・・。 アンタルヤを出てから80kmほど過ぎた辺りだろうか、一番エンジンに近いシートに座っていた私の鼻をかすかに異臭がかすめ始めた。ゴムが焼けるようなその臭いは、どんどん強くなり、もはや他の家族の鼻もごまかせなくなった。 ボンネットを開けるともうもうたる煙。エンジンを冷やすために冷却水を使わない旧式タイプとのことで、オーバーヒートかとギクリとしたが、2日前に漏れて付着したガソリンが燃えたためと判断された。 エンジンが冷えるのを待ち、ボンネットを開けたままで車はようやく目的地へ向けて再出発した。カルカンまではまだ150kmほど。ようやく3分の1の地点まで来たばかりだった。 この車で無事今日中に辿り着けるものやら。私たちは顔を見合わせながら、物も言わず表情だけで会話を交わすばかりだった。 つづく ∬第4話 楽園の風景 ジャンル別一覧
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